2010年6月1日

日本専門看護師協議会からの提言

専門看護師による高度看護実践の提言

医療をとりまく状況と提言の意図

人々の健康問題は、ますます複雑化し、ヘルスケアニーズは多様化してきているが、現在の我が国の医療提供システムは、こうした変化に十分対応できていない現状がある。その背景には、医療技術の進歩、医療の細分化、高齢化社会に伴う患者層の変化、疾患構造の変化という時代の中での大きな変化があり、また、医師不足、病院や診療科の地域偏在、受けられる治療やケアの質の地域格差などが生じ、我が国は、まさに、国民の医療制度への不信、医療崩壊の危機という課題に、直面している。

こうした状況に鑑み、患者中心のより質の高い医療を実現するために、一人一人の医療スタッフが、その専門性を高め、役割分担を再考し、医療スタッフ間の連携を推進していく重要性が認識され、医療施策の重要課題の一つとして、チーム医療の推進に関する検討が急速にすすめられてきている。

日本看護協会認定専門看護師は、特定の看護専門分野での大学院修士課程において教育を受け、医療機関や地域生活の場でプライマリケアから、第3次ケアまでの幅広い実践の場で、医療・福祉に関わる人々との連携を図りつつ、複雑な健康問題をもつ個人、家族、地域を対象に、安全で質の高い看護を実践してきた。先述したチーム医療の推進においても、なくてはならない存在としてチームに位置づけられるものと考える。

ここでは、専門看護師が、保健医療を取り巻く課題、社会の人々のニーズを見据えながらこれまで実践の中で、培い、蓄積してきた実績のコアコンピテンシーを提示し、今後、専門看護師がどのような役割を担っていけるのか、そして、そのことにより国民の健康や福祉にどのような貢献ができるのかについて、意見を表明する。

これらを高度実践看護師の育成に関わる教育機関、専門看護師の活用や医療システム構築に関わる関係機関に提言する。

提言

1.専門看護師は、疾患とその合併症などで複数の治療やケアが必要になったり、自己管理が困難な人々を病気と生活という両側面から捉え、治療(キュア)とケアを統合させた高度看護実践を行うことにより、疾患の治癒過程を促進していきます。

2.専門看護師は、あらゆる健康レベルにある患者・家族に対して、満足した十分な、治療やケアが受けられることを目指し、個別性を重視し、その患者や家族の意思を尊重した看護が提供できるように、専門的な知識と技術を活用して、看護スタッフへの支援を行います。

3.専門看護師は、患者及び家族が、病や障害を持ちながらも安心して、その人が望む場所で、その人らしく日常生活を送れることを目指し、医療機関から地域生活の場において、医療サービスやケアが分断されることなく継続的に提供されるように関連機関や専門職との連携を図るためのケースマネジメントを行います。

1.専門看護師の現状について

専門看護師は、複雑で解決困難な看護問題を持つ個人、家族及び集団に対して水準の高い看護ケアを効率よく提供するために、直接ケア、相談、調整、倫理調整、教育、研究の6つの役割を担う看護師である。日本看護協会による専門看護師認定制度は、欧米のCNS(Clinical Nurse Specialist)とNP(Nurse Practitioner)の双方の役割を果たすことが期待された日本独自の認定制度であり、登録者は、451名、10分野に漸増している。

近年、日本看護系大学大学院の専門看護師教育課程は、増加しており、今後は,高い専門性を発揮できるための修士課程レベルでの教育と、現場での実践を積み重ねてきた専門看護師の増員が見込まれる。

ケアの専門家である専門看護師は、患者のキュアの領域にも踏み込んだ看護を直接実践することで、医療の効率化と質に寄与してきた。また、患者や家族に対する直接的な看護ケアを行う一方で、看護師をはじめケア提供者へのコンサルテーションを行い、医療全体のケアの底上げを担ってきた歴史をもつ。

今後は、これまでの専門看護師の活動を基盤に検討されている【高度実践看護】が国民に理解され、活用されるよう活動をしていく方向である。

そのためには、現在行っている高度な実践を可視化し、世間に伝え、承認を得ていく必要があると考え、専門看護師の実践のエビデンスを示すための研究に取り組んでいる。

2.専門看護師が行う高度実践について

1)対象とする人々
専門看護師は、胎児から成人、そして高齢者までの全ての発達段階にある人々、慢性疾患をもちながら生きている人や、疾患や外傷などにより急激に健康が損なわれた人、終末期にある人、といった多様なニーズのある人々を対象としている。特に、『複数の疾患を抱え、療養が複雑』『キーパーソンが不在』『コミュニケーション能力の障害』などの看護の助けが十分ないと解決が困難となる複雑な健康問題をもつ人々に焦点をあて、ケアを提供していく。

2)高度実践の内容について
専門看護師は、疾患や治療にだけ焦点を当てるのではなく、患者を統合された人間として捉え,包括的なアセスメントに基づき、患者の健康問題を診断した上で、エビデンスに基づいた多様なアプローチを活用する。そして、ケースマネージメントを行いながら、複雑かつ困難な健康問題、療養生活の困難な状況を解決に導くなどの実践を展開し、その実績を蓄積し、また、それを自己の実践に反映させていく。

目指すは、疾病の予防、健康の維持、増進、回復とともに、患者とその家族の意思の尊重、最後までその人らしく慣れた地域で安定して過ごせることを支援するといったようなQOLの維持や改善である。

3)ケアの質を高めるための看護師・他のケア提供者へのコンサルテーション
(1)複雑な問題を抱えている患者への看護ケアを実践する看護師に対して、患者とその家族が、安心して、安全な医療を受けられるように、看護スタッフの相談を受けていき、水準の高いケアが提供できる風土、システム、実践技術の伝達やスキルアップ、倫理的配慮の視点を持つことへの働きかけを行っていく

(2)組織横断的に活動することにより、看護師が職務に満足し、ケアの能力の向上、維持をもたらす

(3)看護実践向上のための教育的なプログラムやケアの開発(方法やツール)に携わり、医療財政的なアウトカムを向上させることに関与する

(4)患者や家族が、できるだけ早期に回復し、地域での生活が送れるように、「セルフケアを促し」また、満足のいく終末期が迎えられるようケースマネージメントを多職種と効率よく提供していく

4)専門看護師がもたらす効果
専門看護師は、ケアとキュアの視点をバランスよく持ちながら、時にはアドボケーターとなり、患者や家族が、最高のケアを受けられるように組織に働きかけ、医療システムを変化させるよう活動していく

(1)患者の病状の改善、疾患からの回復の促進、日常生活や社会的機能を効率的に改善する

(2)急激な状態の悪化や、複雑で、生命危機状況をもたらしうる場においても、医学的問題と、看護問題を包含して診断し、速やかな全身状態の安定をもたらすことに寄与する。

(3)専門的な知識と技術をもつ看護師によるケアの提供により、患者や家族のケア満足度の向上へ寄与する

(4)退院調整や、在宅での療養技術の獲得への介入により、入院患者における在院日数の適正化に寄与する

(5)慢性疾患のコントロール維持のための療養指導、自己管理能力の開発により、個々の患者の入院の機会(頻度)や、予期しない急性増悪(緊急入院)が減少する

(6)患者とその家族へ予測的な指導を行うことにより、疾患の診断と今後起こりうる、予期される結果に対処できる

(7)子どもの誕生と成長の過程で起こる健康問題、子どもと家族の特性を含む発達上の課題、成育環境についてのアセスメントと介入により、子どもと家族の最善の健康を支えることに寄与する

(8)健康問題に加え、加齢に伴う心身の変化や文化的背景も含んだアセスメント、および看護介入を行うことにより、高齢者への身体拘束を解除または、最小限にする

(9)個々の患者のケアによる成果だけではなく、組織に対しては、変革のための方略の検討に参加することで、患者ケアや保健医療を改善するためのシステムや手順の開発など、組織全体の医療の質向上に影響を与える

(10)患者が、地域、病院、外来など、場が移行しても、提供されるべきケアが継続して受けられるように看護師や多職種協働チームを先導し、調整する

(11)各ライフステージにおける特有の健康問題や正常からの逸脱、倫理的問題を明らかにし、社会政策や、プログラム開発へ寄与する

3.専門看護師の今後の課題

1.高度実践看護師のあり方を広く示していくために、専門看護師の役割遂行の方法、成果などについての更なる可視化を積極的に行っていく

2.専門看護師が、看護の業務範囲を超えた判断や行為を行うことについて、医師が参加している学会等で承認されたプロトコールに基づいていることを前提に、公に認められるよう働き掛けていく。

3.専門看護師を積極的に、医療機関や診療所等が活用できるよう、高度看護実践についての経済的な評価を含めた配置促進の仕組み作りへ働き掛けていく。

4.医療機関のみならず、介護保険施設、訪問看護ステーションなどの医療・介護の現場における専門看護師の雇用促進やコンサルテーションシステムの構築に働き掛けていく。

5.さらなる訓練、教育を行い、専門看護師が、自立的な判断の基に、実践できる行為の範囲を拡大していくことをめざす。